×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
本日真夜中/本の整理をしていたら昔好きだった鮎川信夫の詩集が出てきた/久しぶりに読んだら昔以上にグッと心に刺さった
ひどく降りはじめた雨のなかを/おまえはただ遠くへ行こうとしていた/死のガードをもとめて/悲しみの街から遠ざかろうとしていた/おまえの濡れた肩を抱きしめたとき/なまぐさい夜風の街が/おれには港のように思えたのだ/船室の灯のひとつひとつを/可憐な魂のノスタルジアにともして/巨大な黒い影が波止場にうずくまっている/おれはずぶ濡れの悔恨をすてて/とおい航海に出よう/背負い袋のようにおまえをひっかついで/航海に出ようとおもった/電線のかすかな唸りが/海を飛んでゆく耳鳴りのようにおもえた
おれたちの夜明けには/疾走する鋼鉄の船が/青い海のなかに二人の運命をうかべているはずであった/ところがおれたちは/何処へも行きはしなかった/安ホテルの窓から/おれは明けがたの街にむかって唾をはいた/疲れた重たい瞼が/灰色の壁のように垂れてきて/おれとおまえのはかない希望と夢を/ガラスの花瓶に閉じこめてしまったのだ/折れた埠頭のさきは/花瓶の腐った水のなかで溶けている/なんだか眠りたりないものが/厭な匂いの薬のように澱んでいるばかりであった/だが昨日の雨は/いつまでもおれたちのひき裂かれた心と/ほてった肉体のあいだの/空虚なメランコリィの谷間にふりつづいている
おれたちはおれたちの神を/おれたちのベッドのなかで絞め殺してしまったのだろうか/おまえはおれの責任について/おれはおまえの責任について考えている/おれは慢性胃腸炎病患者のだらしないネクタィをしめ/おまえは禿鷹風に化粧した小さな顔を/猫背のうえに乗せて/朝の食卓につく/ひびわれた卵のなかの/なかば熟しかけた未来にむかって/おまえは愚劣な謎をふくんだ微笑を浮かべてみせる/おれは憎悪のフォークを突き刺し/ブルジョア的な姦通事件の/あぶらぎった一皿を平らげたような顔をする
窓の風景は/額縁のなかに嵌めこまれている/ああ おれは雨と街路と夜がほしい/夜にならなければ/この倦怠の街の全景を/うまく抱擁することができないのだ/西と東の二つの大戦のあいだに生れて/恋にも革命にも失敗し/急転直下墜落していったあの/イデオロジストの顰め面を窓からつきだしてみる/街は死んでいる/さわやかな朝の風が/頸輪ずれしたおれの咽喉につめたい剃刀をあてる/おれには掘割のそばに立っている人影が/胸をえぐられ/永遠に吠えることのない狼に見えてくる
「繁船ホテルの朝の歌」鮎川信夫
追記
鮎川信夫は1986年10月17日にゲームしながら亡くなったようだ/スーパーマリオブラザーズの最中に昇天されたらしい/享年66歳
ひどく降りはじめた雨のなかを/おまえはただ遠くへ行こうとしていた/死のガードをもとめて/悲しみの街から遠ざかろうとしていた/おまえの濡れた肩を抱きしめたとき/なまぐさい夜風の街が/おれには港のように思えたのだ/船室の灯のひとつひとつを/可憐な魂のノスタルジアにともして/巨大な黒い影が波止場にうずくまっている/おれはずぶ濡れの悔恨をすてて/とおい航海に出よう/背負い袋のようにおまえをひっかついで/航海に出ようとおもった/電線のかすかな唸りが/海を飛んでゆく耳鳴りのようにおもえた
おれたちの夜明けには/疾走する鋼鉄の船が/青い海のなかに二人の運命をうかべているはずであった/ところがおれたちは/何処へも行きはしなかった/安ホテルの窓から/おれは明けがたの街にむかって唾をはいた/疲れた重たい瞼が/灰色の壁のように垂れてきて/おれとおまえのはかない希望と夢を/ガラスの花瓶に閉じこめてしまったのだ/折れた埠頭のさきは/花瓶の腐った水のなかで溶けている/なんだか眠りたりないものが/厭な匂いの薬のように澱んでいるばかりであった/だが昨日の雨は/いつまでもおれたちのひき裂かれた心と/ほてった肉体のあいだの/空虚なメランコリィの谷間にふりつづいている
おれたちはおれたちの神を/おれたちのベッドのなかで絞め殺してしまったのだろうか/おまえはおれの責任について/おれはおまえの責任について考えている/おれは慢性胃腸炎病患者のだらしないネクタィをしめ/おまえは禿鷹風に化粧した小さな顔を/猫背のうえに乗せて/朝の食卓につく/ひびわれた卵のなかの/なかば熟しかけた未来にむかって/おまえは愚劣な謎をふくんだ微笑を浮かべてみせる/おれは憎悪のフォークを突き刺し/ブルジョア的な姦通事件の/あぶらぎった一皿を平らげたような顔をする
窓の風景は/額縁のなかに嵌めこまれている/ああ おれは雨と街路と夜がほしい/夜にならなければ/この倦怠の街の全景を/うまく抱擁することができないのだ/西と東の二つの大戦のあいだに生れて/恋にも革命にも失敗し/急転直下墜落していったあの/イデオロジストの顰め面を窓からつきだしてみる/街は死んでいる/さわやかな朝の風が/頸輪ずれしたおれの咽喉につめたい剃刀をあてる/おれには掘割のそばに立っている人影が/胸をえぐられ/永遠に吠えることのない狼に見えてくる
「繁船ホテルの朝の歌」鮎川信夫
追記
鮎川信夫は1986年10月17日にゲームしながら亡くなったようだ/スーパーマリオブラザーズの最中に昇天されたらしい/享年66歳
PR
COMMENT FORM
COMMENT
03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |
最新トラックバック
最新コメント
[09/17 okajimax]
[01/18 photogino]
[09/16 okajimax]
[09/16 photogino]
[06/22 okajimax]
ブログ内検索
最新記事
(02/20)
(12/31)
(11/15)
(11/11)
(11/02)
(10/31)
(09/16)
(09/14)
(08/27)
(08/24)
(08/20)
(08/19)
(08/06)
(07/29)
(07/22)
(07/17)
(07/13)
(07/12)
(07/09)
(07/07)
最古記事
(11/28)
(11/30)
(12/03)
(12/04)
(12/06)
(12/10)
(12/11)
(12/12)
(12/14)
(12/18)
(12/23)
(12/24)
(12/25)
(12/27)
(12/28)
(12/30)
(01/02)
(01/03)
(01/04)
(01/06)
アクセス解析
カウンター